2023年4月
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『リトル・フォレスト 』12夏・秋冬・春〔2014〜2015年=松竹・ROBOTほか/計231分◆森淳一監督〕いち子は創意工夫を重ねて得意料理を増やしていく。岩魚の塩焼き、ぐみジャム、胡桃ご飯、栗の渋皮煮、甘酒、納豆餅…自然の恵みに感謝しながら。 それは同時に大自然との対話であり、大自然との闘いでもある。キッコやユウ太たちとの何気ない会話の中から、山村で生きていく覚悟も少しずつ学んだ。そうした日々を通し、“居場所”を見失っていた彼女は一人で生きていく力を育んでいく…。 のどかで、時に厳しい大自然の景色を美しく見せながら、巧みな画面分割で料理の手順を紹介し、美味しそうに食べる場面の連続。それはオシャレな料理本をめくるようであり、そのうち人間として生きることの核心を教えてくれる仕掛けだ。さて、いち子は最後に何を思うのか―。そして観る者はラストの春に何を感じるか―。File No.64 春―新たな人生に踏み出す人の背中を押してくれる異色の作品。と言うのも、全編ほとんど農作業と料理と食事の様子を、四季折々の景色と共に映し出しながら若者に人生を教え励ます作品なのだ。岩手県奥州市の山村で1年がかりのオールロケを敢行。料理研究家・野村友里の率いるチームが実に多彩なメニューを指導した。 一度は都会に出たものの挫折し生まれ故郷の小さな集落・小森に戻ってきた主人公いち子(橋本愛)は、小森の活性化に情熱を燃やす年下のユウ太(三浦貴大)や親友のキッコ(松岡茉優)たちに助けられながらも、ほぼ自給自足の生活に汗を流している。稲を育て野菜を植え、時に山菜や果実を採って、母(桐島かれん)に教わったとおり料理するが、なかなか満足のいく出来にはならない。家出した母はたまに手紙をよこすくらいなので自慢のレシピを教えてもらえず、

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